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「マラソン」

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韓国の映画とかドラマって、ラブストーリーはあまり見ないのですが、チャングムみたいな歴史ものとかヒューマン系の作品はかなり骨太で見ごたえのある作品が多いので好きなんです。

「マラソン」は自閉症の青年がマラソンでサブスリー(42.195kmを3時間以内で完走することで、アマチュアランナーの夢)達成するまでの話です。実話をもとにしていて、モデルとなった男性は、その後トライアスロンにも成功しています。でも、この映画はただのサクセスストーリーが物語の主軸になっているわけではありません。一番中心になるのは、自閉症を持つ子どもとその母親の関係性、2人を取り巻く環境や周囲の理解・無理解、その中で母親が直面する現実がメインテーマとなっています。

「自閉症」と聞いて、その漢字の雰囲気から「引きこもり」や「登校拒否」のようなイメージを持つ人は多いのではないでしょうか。私自身も、認識不足でなんとなく漠然とそのようなイメージでとらえていました。10年以上前に「レインマン」のダスティン・ホフマンが演じる自閉症の役を見て、なんだか違うということは分かっていたはずですが、それ以上詳しく知る機会がなかったのです。引きこもりや登校拒否は、健常者が環境的な要因や精神的なショックによって陥る「心の病気」であり、治療によって改善することが可能です。しかし、自閉症はそれとは全く違うのだいうことがこの映画を見るとよく分かります。

映画の最初のほうで、主人公の男の子チョウォン(チョ・スンウ)とその母親であるキョンスク(キム・ミスク)は医者からはっきりとこう宣告されます。「自閉症は病気ではなく、障害です。薬や手術では治せません。」「一番大きな問題は意思の疎通が図れないこと。」「だから、家族が疲れます」。この言葉の通り、自閉症は病気ではなく、生まれつきの脳の発達機能障害で、治ることはありません。自分の息子は治る病気なのだと信じていたキョンスクはこの言葉に愕然とします。

しかし、一生この子を愛し、自分が守っていくと決めたキョンスクは息子にあふれんばかりの愛情を注ぎ、常に二人三脚で生活していきます。そんな彼女の願いは「この子が私よりも一日早く死ぬこと」。息子を理解し、愛し、守れるのは母親である自分以外に誰もいないと信じて、時には過剰なまでの愛情を一心にキョウォンに与えます。あまりにも自分の思いの対象がチョウォン1人に傾倒しすぎたため、夫やもう一人の息子であるジュンウォンを省みることを忘れてしまい、4人だった家族には少しずつひずみが生じてきます。

時が流れ、そんなチョウォンも20歳の青年になりますが、やはり精神年齢は5歳程度のままで、ジャージャー麺とチョコパイとシマウマが大好き。相変わらず人とコミュニケーションをとることは難しく、母親の言うこともなかなか理解してはくれません。でも、彼にはひとつ特技がありました。走るスピードは周囲の誰よりも速かったのです。

キョンスクは、走っているときのチョウォンの表情を見て、息子は走ることが本当に好きであり、走っているときは他の人と何も変わらないと感じ、そして彼にマラソンを走らせることで何かが変わるのではないかと期待します。チョウォンの学校に体育のコーチとしてやってきたジョンウクに頼み込み、彼の指導が始まります。しかし、走る本人のチョウォンではなく、母親であるキョンスクがあまりにも入れ込みすぎていることに対し、ジョンウクは「チョウォンが母親なしで生きられないのではなくて、あんたが息子なしで生きられないんだ。生めば自分のものか?」と批判します。

これに憤慨し、またジョンウクの指導法にも疑問を感じたキョンスクは彼の力を借りず自分でマラソンをコーチしようとしますが、うまくいきません。そのうちに息子に練習を続けさせるか、やめさせるか悩み始めます。そんな中、疲労とストレスが重なって胃穿孔で倒れてしまったキョンスク。病院のベッドの中、気弱になった彼女の考えに変化が生じます。息子にマラソンをさせようとしているのは自分のエゴであり、自己表現ができない息子に「イヤだ」ということを言えなくさせてしまったのは自分の育て方が間違っていたせいだ、母親失格だと自分を責め、落ち込みます。

「あの子はみんなと同じではない。他の子とは違う。それに気づくのに15年かかった。もうムリなことはさせない。」 これまでと一変して走ることを息子に禁じるキョンスク。一方チョウォンはもう走らなくても良いと言われ、わけが分からぬままに母親に従うものの、少しずつ近づいてくるマラソン大会の日が気になって落ち着きません。コーチとランニングした土手で感じた風の心地よさを思い出し、学校の作業場で目をつむってその場で足踏みをしてみたり、もう履くことのないランニングシューズを手にとって見つめるチョウォン。

マラソン大会当日、「もういいから、家に帰りましょう」と必死に引き止める母親の手を振り切り、走り出したチョウォンの姿がありました。今までずっと母親の愛情と庇護のもとに守られてきたチョウォンが自分の意思で走り出した瞬間の象徴のようなシーンです。ここからは、チョウォンの空想を含めた場面が次々に展開しますが、最終的に見事ゴールすると分かっていても感動しました。

この作品では、チョウォン役のチョ・スンウの演技に驚嘆しました。すごいとしか言いようが無い。表情といい、喋り方といい、あそこまで演じきれる役者さんが日本には居るでしょうか…。そして、母親の子どもに対する愛情、それも障害を持つ子どもの母親の心の葛藤や苦悩、日常の現実が様々な側面から非常に細かく描かれていました。

重い内容になりがちなテーマですが、チョウォンの純粋さ・無邪気さが作品に笑いや明るさを与えてくれていて、マラソンの場面では感動させられたし、また、自閉症というものに対する誤った認識を改めるきっかけとしても、見てよかったと思える映画でした。
by cita_cita | 2010-02-08 22:15 | 映画
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