「日日是好日 お茶が教えてくれた15のしあわせ」 森下典子

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日日是好日。私の好きなこの言葉を初めて知ったのは、高校生の頃学校帰りによく散歩をしていた妙心寺でこの言葉を見たときでした。その後、祖父の墓がある東福寺に墓参りに行くと、またこの言葉と出会いました。臨済宗は禅宗ですから、この有名な禅語が掲げてあるのは自然なことだったのですね。

数年前、久しぶりに妙心寺に行ったとき、一枚のしおりをいただきました。そこにもまた「日日是好日」の文字があり、こんな説明が書かれていました。
「私たちの人生は雨の日もあり、風の日もあり、晴れの日もあります。しかし、雨の日は雨の日を楽しみ、風の日には風の日を楽しみ、晴れの日は晴れの日を楽しむ。すなわち楽しむべきところはそれを楽しみ、楽しみ無きところもまた無きところを楽しむ、これを日々是れ好日というわけです。どんな苦しい境界に置かれても、これ好日、結構なことですと、カラ元気でなく心から味わえるようにならなければなりません。」
私はこのしおりを何度も読み、そして会社で毎朝輪読する本の間にはさみました。

先日、森下典子さんの「いとしいたべもの」を読んだことがきっかけで、彼女もまた『日日是好日』という本を出版していると知りました。調べてみると、お茶についての本だとか。お茶を習ったことの無い私にも分かるかなと思いましたが、「いとしいたべもの」を読んで彼女の文章が心地よかったので、図書館で借りてみました。

この本には、お茶についての難しい話はどこにも書かれていませんでした。一人の不器用な女の子が、仲のいい友達に誘われて家の近所で通い始めたお茶のお稽古。その中で決まりごとの多さに面食らい、その作法の意味を尋ねると「今は意味なんて気にしなくてもいいのよ」と言われて困惑し、季節ごとのお茶菓子の美しさに感動し、お花屋さんでは売っていないさまざまな花で世界が溢れていることに気づいていく…。そんな過程が、まるで自分も一緒にお茶のお稽古をしているように生き生きと伝わってきます。20歳の女子大生だった作者は、晴れの日も雨の日も、毎週先生の家に通い続け、25年間の月日が流れました。25年の間に彼女には色々なできごとが起こり、出会いや別れも経験し、その中でいつもお茶がそばにあり、お茶に対する考えもさまざまに変化しました。

お茶を習っていると、あるとき、はっとするような瞬間が訪れるのだそうです。たとえば、それまで空から降ってくる水でしかなかった雨が、ある日、夕立の前に生ぬるい匂いを持つまったく違ったものに感じて愕然とする。そんな「気づき」の瞬間が「定額預金の満期のように」時々やってきたのだそうです。それはおそらく、自分の中では口座にお金が蓄積されていくように、あるいはコップに水滴が少しずつたまっていくように徐々に起こっている変化なのですが、自分がそれに気づくのはコップから水が溢れ出したその瞬間なのでしょう。

こんな「すごい」文化が日本にあること、それを戦国時代の昔から長年大切に育て、積み重ねてきた多くの人たちの存在を改めて実感しました。私の知らないこんな世界があったのか、お茶と接している人たちの前にはこんな喜びを味わう無限の可能性が広がっているのかと思うと、心底うらやましくも思いました。私には果たしてそんな喜びを味わうことができるのでしょうか。私が今後の人生の中でお茶を習う機会があるかどうか、それはわかりません。でも自分にとっては、それはヨガを通じて実現することができるのではないかなと、今感じています。不思議な話ですが、この本を読んでいる最中、頭の中でヨガがお茶にオーバーラップする瞬間が何度もあったからです。たとえば「”自分は何も知らない”ということを知る」「”今”に気持ちを集中すること」「自分の内側に耳をすますこと」などの言葉が出てきます。まさに「ヨガ」的な考え方だと思うのですが、どうでしょうか。

この本の「まえがき」の中に、とても好きな文章があります。
「前は、季節には『暑い季節』と『寒い季節』の二種類しかなかった。それがどんどん細かくなっていった。春は、最初にぼけが咲き、梅、桃、それから桜が咲いた。葉桜になったころ、藤の房が香り、満開のつつじが終わると、空気がむっとし始め、梅雨のはしりの雨が降る。梅の実がふくらんで、水辺で菖蒲が咲き、あじさいが咲いて、くちなしが甘く匂う。あじさいが終わると、梅雨も上がって、「さくらんぼ」や「桃の実」が出回る。季節は折り重なるようにやってきて、空白というものがなかった。」

何年も何年も、晴れの日も雨の日も、そして晴れやかな気分の時も、ずぶぬれになったような気分の時も、ただひたすらに同じ道を通い続ける。その経験はまるで「人生の定点観測」をしているのと似ているのかもしれません。
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by cita_cita | 2008-03-11 21:10 | 読書
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