「ほんまもん」の精進料理

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2年半ぶりに月心寺の精進料理をいただいてきました。月心寺は滋賀と京都の県境、かつて逢坂の関と呼ばれたところにある尼寺です。ここの庵主様である村瀬明道尼(むらせみょうどうに)の作る精進料理は、かつて吉兆の創業者が「天下一」と褒め称えたほどで、昔NHKの連続ドラマになった「ほんまもん」の中で主人公が料理の師と仰ぐ「庵主さま」のモデルにもなった方でもあります。

2年前、2005年の春に初めて庵主様の料理を食べて料亭顔負けのおいしさと庵主様のお話に感激して以来、次はぜひ「一年で一番野菜の種類も多く、味も深まる」と庵主様がおっしゃった秋のお料理を食べに行きたいと思っていました。(ちなみに前回は映画Shall We Dance?のプロモーションで来日中だったリチャード・ギアがたまたま月心寺で同じ料理を食べるために家族で訪れていて、それもまた衝撃的でした。チベット仏教の熱心な信者である彼は庵主様の話にもそれは熱心に耳を傾けていました。)ちなみに以前の日記でそのときの話と庵主様の著書について書いています。興味のあるかたはこちらをご覧ください

そして今回、ようやく念願かなって再訪となりました。月心寺は江戸時代に東海道沿いにあったお茶屋さんが廃業したあと、大正時代に日本画家の橋本関雪の別荘となり、その後今のお寺になったものです。広重の浮世絵「東海道五十三次」の中でも、このお茶屋が登場しています。なんて書くと風流なんですが、東海道といえば、今は国道1号線。目の前をびゅんびゅん大型トラックが通っている、そんなすごい場所にぽつんと建っているので、きっと京阪神に住んでいる人なら一度は前を通ったことがあるはずですが、普通なら見落としてしまうと思います。でも、トップ写真の通り、すごく趣きのある素敵な建物なんですよ。

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中に入ると部屋に通されます。ここからのお庭の眺めがまたすばらしいのです。料理は渡り廊下の向こうから、次々と運ばれてきます。

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まずはじめは月心寺の名を広く知らしめた、庵主様手作りのごま豆腐です。夜中の2時ごろから30分ほどかけてごまをすりお湯でのばして布巾でこして、塩、酒、吉野葛を加えて加熱し、固めていきます。このごまをする作業は、本当に加減が難しいらしく(すり方が足りないと物足りなく、すり過ぎるとしつこくなる)庵主様は絶対にお手伝いの方にはさせないそうです。ほれぼれするような白さで「ごま豆腐」って言われないと、ぱっと見た目ではごまが入っているなんて分からないほど。でもたまり醤油と本わさびを少しだけのせて一口食べるとびっくりするほどごまの香りがよく、でも品がないほどのしつこさはなく、ふんわりと口の中に広がります。

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この後、汁物として白味噌仕立てのお汁と少しのご飯が出ます。懐石だとは最後に出る組み合わせですが、実は月心寺の精進料理にはお酒も出されるのですきっ腹でお酒を飲まなくてもいいようにとの気遣いだそうです。お汁の中に見える黄色いものはからしです。からしを溶いていただくと、普通の白味噌のお汁とはまったく違った味わいになって驚きました。白味噌といえば、我が家ではお正月のお雑煮ぐらいしか使わないのですが、お餅の入っていないお味噌汁を白味噌仕立てにしてもこんなにおいしいのですね。

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これは蓮餅、しめじ、銀杏、柚子などのはいったお汁と海老芋と生姜の煮物です。蓮餅というのは蓮根をすり下ろしたものを練ってねばりを出し、松の実を加えてコクを出したものを団子にして油で揚げたもので、それをお汁の中にいれてあるのです。よくある蓮餅は海老やひき肉でコクを出すのですが、これは精進料理なので松の実で。

庵主様は若いころにお寺の目の前の道路でトラックに跳ねられて命にかかわるほどの怪我をされたため、その後遺症で右手と右足が不自由なのですが、それでも右手でお鉢や食材を支えつつ左手に包丁を持って器用に料理をされるそうです。その野菜の切り方はもはや芸術品で、もちろんお手伝いのお弟子さんたちにも野菜や道具の扱い方にはとっても厳しいそうです。

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そんな美しく切られた野菜が楽しめるのがこれ。これも月心寺を代表する料理である吹き寄せです。吹き寄せというのは落ち葉が地面に落ちてさまざまな色合いを見せるさまを表しているそうです。蓮根、百合根、ごぼう、銀杏、栗、にんじん、しいたけ、粟麩など秋の味覚がぎっしり詰まった料理です。小さく切られているのにもかかわらず野菜ひとつひとつがなんでこんなにおいしいのかと思うほど。

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こちらの炊き合わせはにんじん、百合根、しいたけ、かぼちゃ、蓮根、高野豆腐の5種盛り。

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そして白和え。これはもう説明不可能なほどにおいしかった。大げさなようですが、なんか魔法でも使ったのかと思うほど、これまで食べてきた白和えと別物でした。豆腐、きくらげ、菊名、といった一般的な材料に加えてなんと柿とりんごが入っているそう。そこに多めの辛子でアクセントを加えているので甘みとピリッとした辛さのバランスが絶妙でした。

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途中から撮りきれなくなったので慌てて記録のために撮った写真。8人で一部屋に集まった真ん中に、テーブルやお膳はなく、畳に直接並べてあります。大鉢に入ったものを自分の器に好きなだけ取り分けてまわすのですがもはや田舎の法事かアジアの小村の歓迎の宴みたいな状態。ちなみにここまで写っていたお鉢は2人分だけ入った小さな鉢。これと別に6人分入った大鉢も回っていました。これに加えてごはんもお酒も好きなだけいただけます。まず普通は食べきれない量が出るので、最後に持ち帰りようのパックを渡されて、各自お弁当を作って帰るのです。家でもまた同じ感動が味わえるなんてすばらしい!私は両親に持って帰りましたが、2人とも「あれもおいしい、これもおいしい」と喜んで食べていました。うちは家族で食事に行く機会はあまりなく、私だけがおいしいものを食べ歩きしていることが多いので、自分がおいしいと思ったものを両親にも味わってもらえるのは本当にうれしかったです。

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おまけ。月心寺のお手洗い前の洗面台。よく、居酒屋などでレトロにしつらえた洗面所はありますが、これはまさにほんまもん。使い込まれ、しかもよく手入れされているのです。
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by cita_cita | 2007-11-12 23:12 | おいしいもの
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