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「ホームレス中学生」 田村裕

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ベストセラーはあまり買わない(パラパラ立ち読みして、面白くなさそうならやめるか文庫になるまで待つ)私なのですが、これは部屋で読もうと思って買ってしまいました。

「すべらない話」とか「アメトーク」で田村の貧乏エピソードは何度も聞いて知っていたのだけど、やっぱり文章にするとまた違った面白さ&せつなさがありました。そして、テレビではあまり語っていなかった母親への思いが切々と綴られていて、思わず泣いてしまったやん…。田村ってホンマにお母さんが大好きやったんやなーと感じさせられる部分がたくさんありました。この人の文章は本人もあとがきでも書いている通り、プロの作家と比べると決して上手ではないけれど、文章に人柄が表れるというか、飾らず淡々としていて(たまにそのなかにさりげなく笑いが混じってたりする)読んでいて素直に心の中に入ってくるものがありました。

ここからはちょっとネタバレになってしまうので、これから買って読みたい人は飛ばしてくださいね。ごめんなさい。

ある日突然家がなくなったときに感じたことや、お母さんが亡くなった日、そして後になってお母さんの死を初めて実感として認めなければいけなかった日のこと、吉本興業に入ってお笑いを目指すと決めたときのことなど、田村のありのままの気持ちが書かれています。そのあたりはやっぱりしんみりとしてしまうのだけれど、もちろん(かわいそうなんだけど)びっくりしたり、笑ってしまう場面もたくさんあります。公園生活時代、ハトのえさを奪い取ってしまうほど飢餓感を感じたこと、自分のねぐらにしている遊具に向かって小学生の子供たちが集団で面白半分に石を投げてきたときの恐怖、友達の家でお風呂に入ってお湯に触れたときのものすごい感動、雨をシャワー代わりにしていたこと、お姉さんが人気のない公園で1人で寝るのが怖くて夜が明けるまで歩き回っていたこと…数十年前の話ならいざ知らず、私と同じ世代の人たちが、まだ未成年の非力な時期にこんな思いをしたなんて信じられない話ばかりです。

田村兄弟の困窮ぶりを語るものすごいエピソードはこのほかにもたくさん登場します。でも、これは決して田村の貧乏自慢の本ではなく、田村がお母さんや、家族や、自分を支えてくれた人たちに向けた感謝の気持ちをいっぱいに表した本だと思います。そして、今つらい思いをしている人はもちろん、ある程度恵まれているのにその幸せを実感できず虚無感を感じている人にもこれを読んでもらいたいなーと思います。いろんな意味で元気が出る本です。「僕は、お湯に感動できる幸せのハードルの低い人生を愛しています」という田村の言葉が心に残ります。
by cita_cita | 2007-10-24 20:59 | 読書
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