「名馬風の王」 マーゲライト・ヘンリー (絶版)

e0066369_1271737.jpgこの本をずっと探していました。
宮本輝著「優駿」の中で、この本が重要なキーワードとして登場します。最初に優駿を読んだときから、いつか読んでみたいと思っていましたが、最近分かったのは、以前は講談社の子供向けシリーズ「青い鳥文庫」から出版されていたものの、現在では絶版になっており入手困難とのこと。でも、どうしても読みたくて、図書館に問い合わせて蔵書を調べ、やっと念願かなって読むことができました。

「優駿」の中では、この作品は主人公である博正が、彼の牧場で生まれたオラシオン(最初の名前はクロ)のサラブレッドとしての血統を説明する場面で、博正が子供の頃父親に与えられて何度となく読み返した本として登場します。オラシオンの血統はアラビア馬ゴドルフィンというルーツを持ち、そのゴドルフィンについて1940年代に書かれた小説がこの「名馬風の王」なのです。

昔モロッコにアグバという口のきけない少年がいて、王様の馬屋で馬の世話をしていた。そこに一匹の子馬が生まれ、出産とともに母馬が死んでしまったのでアグバは子馬をシャムと名づけて親代わりになって熱心に世話をした。あるとき王様がフランスの国王に贈り物として、国中で一番立派な馬ばかり6頭を選んでプレゼントすることにした。その中にシャムが選ばれ、アグバもその世話役として船に乗ってフランスに旅立った。ところが船上の長旅と度重なる嵐のせいで、フランスに到着したときには立派だったはずの馬は骨と皮だけになってやせ衰え、これに気を悪くしたフランス国王は全ての馬を追い返そうとした。モロッコに帰ることもできず、シャムは王宮の料理番の買出し用の荷馬車を引く馬として、それ以外の5頭は軍隊用として散り散りになってしまった。

ところが料理長はシャムがアグバの言うことしか聞かないのを見て、何とか言うことを聞かせようと無理強いをしたので結局振り落とされて恥をかく羽目になり、この馬を売り飛ばしてしまった。シャムはあらくれものの材木運びの親方に引き取られてこきつかわれ、弱りきって倒れかけたところを通りがかりのイギリス人に買い取られ、彼の養子へのプレゼントとしてイギリスに行くことになり、アグバもシャムとともにイギリスに渡る。その家では、彼や家政婦に大変可愛がられたけれど、養子がシャムをうまく扱えず、怖がってあの馬を追い出して欲しいと言ったものだから、家族は不本意ながら信頼できる知人のもとにシャムとアグバを託すことにする。その知人はいい男だったものの、神経質な妻がものを言わないアグバを気味悪がり、アグバだけが追い出されてしまう。アグバはシャムに会いたい一心で夜中の馬小屋に忍び込むが、これが妻に見つかってしまい、馬泥棒のぬれぎぬを着せられて牢屋にいれられてしまう。

そんなこととは知らない前の家の家政婦がごちそうを持ってアグバに会いに行って、初めて牢屋に入れられたことを知り呆然と立っているところに通りがかった馬車に乗っていたのが公爵未亡人とその養子のゴドルフィン伯爵。家政婦の話を聞いて不憫に思い、一緒に牢屋に連れて行ってアグバに面会し、ことのいきさつを聞いてアグバを牢屋から出し、その足でシャムを買い受けに向かう。晴れて伯爵の屋敷で暮らせることになったのもつかの間、伯爵が一番大切にしているホブゴブリンという馬のお嫁さん候補としてやってきたロクサーヌというメス馬と、あろうことかシャムが交わってしまう。怒り狂った伯爵はシャムとアグバを屋敷から追い出し、アグバたちはじめじめした沼のほとりで孤独な日々を過ごす。

ところがある日屋敷から迎えがやってくる。シャムとロクサーヌの子馬は2歳馬になり、ある日囲いから飛び出して走りだし、調教を受けている最中だった他のどの馬よりも早く駆け抜けた。これを見た伯爵は、自分がとんでもない間違いをしたと気づき、「これはまったく新しい血筋だ。アグバのあの馬のほかにこういう血筋の馬はないはず。ただちに連れ戻せ」と命令したのだった。そしてシャムとアグバは屋敷に戻り、シャムは伯爵と同じゴドルフィンという名前をもらい、シャムとロクサーヌの子馬たちは次々とレースの記録を塗りかえ続けた。シャムの孫、エクリプスはイギリスの誇りと言われたほどで、エクリプス系という系統の始祖となった。シャムは長生きして29歳で死んだが、アグバはシャムの一生を通じて世話をし続け、シャムが死んだ翌日にモロッコに帰っていった。

とまあ、こんなストーリーです。優駿を読めば、これと同じ程度のあらすじは大体分かるのですが(博正が語ってくれる場面があるので)やはり原書(正確に言うと原書の和訳)を読むと感じるものがたくさんありました。子供向けの本なので、分かりやすい表現でかいてあって、1日で読めてしまいましたが、一番最後の数行を読んだとき、読んでよかったと心から思いました。とっておきの終わり方なので、ここにはあえて書きませんが(ごめんなさい)、でも子供だけが読むにはもったいない小説でした。これ、絶版になったのは本当に惜しいです。同じように思う人も多いようで、「復刊ドットコム」というサイトでも多くの人が復刊希望のコメントを書いていました。そのコメントにやはり「優駿を読んで興味をもった」という人が多かったのが印象的でした。
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by cita_cita | 2006-07-28 23:29 | 読書
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