「沖縄・奄美 《島旅》紀行」 斎藤潤

e0066369_11464681.jpg「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」や「下流社会」をはじめ、最近光文社新書の躍進ぶりが目立つので、本屋でも注目しています。光文社って、中公や講談社みたいにネタの核となる出版物が少ないから、連載モノの新書化じゃなく、一から企画して書き下ろしで新書化することが多いそうです。そのせいか、従来の新書にはなかったようなジャンルのものも多くて企画が上手だなと感じます。新書って以前は縁がなかったのですが、探してみると結構興味深い本がたくさんありますよ。私の情報収集源はこちら(新書マップ)。ヴァーチャル本棚みたいでなかなかおもしろいので一度除いてみてください!

さて、その光文社文庫で見つけた「沖縄・奄美 《島旅》紀行」。著者の斎藤潤さんはJTBから雑誌「旅」、「るるぶ」編集を経て独立、現在、旅・島・食関連中心のフリーライターとなっている人。そういう経歴を持つ方にしては、最近の沖縄本に多く見られる読者をあおるような過剰な沖縄賛美もなく、フラットな視点から見た沖縄のそのままの姿を飾ることなく綴ってあります。かといって、民族学・文化人類学などの研究者が書いた学術文庫的な小難しさ、堅さもなく、とても読みやすく親しみが持てる文体で、ちょうど両者の中間に位置する本という感じ。でも、著者の沖縄に対する思い入れは大変強く、本書の冒頭の「沖縄と奄美は、日本ではない。少なくとも、文化的には。ぼくは、そう確信している。そして、感謝もしている。南島が、日本国の一部であることを。日本文化と異なるもう一つの文化が、同じ国内に根づいているとは、なんと素晴らしいことだろう。」という文章からもその思いが伝わってきます。

本島周辺、八重山、宮古、奄美の島々について偏りなく数多く取り上げられているのもよかったです。そこに書かれているエピソードも等身大のもので、なんでもないような話も多いのだけど、これまでの沖縄本で読んだことの無かった情報なども多く、そこからその土地や人の空気感が漂ってくるような内容です。多くの島を扱っているので、一つの島に割かれているページは大体8~10ページ程度です。そのため、島の概要や基本情報を網羅するというより、2、3のエピソードに焦点を絞ってストーリーが語られます。でも色んな情報を詰め込もうとするよりも、その方が結果的にはよかったのではないかと思います。

例えば由布島では「この島をハワイにするんだ!と意気込んで変人扱いされながらも今の由布島を作りあげた正治おじいの話、石垣島では「裏石垣」と呼ばれる島北部の東海岸 明石から平野集落にいたる海岸沿いの散歩で出会った風景、そして多良間島のスツウプナカ(豊年祭)での男性の役割など…。でも、私達が自分の足で島を訪れて、その島の人や文化と接点を持つ瞬間って、まさにこういう部分的・局所的接し方ではないでしょうか。民宿に泊まって、晩御飯のあとオジイやオバアから話を聞く、たまたま通りがかった場所に立っている石碑の説明書きを読み、ガイドブックで詳しくその由来を調べる、そうやって何もないところから少しずつジグソーパズルのピースを増やしていくように、その土地に対する自分なりの思いを含んだイメージが出来上がっていくのではないかと思います。きっとそのジグソーパズルが完成することは永遠にないんだろうけど、だからこそ新しい土地や人との出会いは素晴らしいと思う。

上にも少し書きましたが、この本を一言で表すと、「とてもバランスのよい本」だと思います。著者の主観に沿って彼の視点と言葉で語られていながら、それに引っ張られすぎることなく、読者もまた自分なりの感想を持つことができる。意外とこういう本って少ないのではないでしょうか。amazonのレビューで「懐の深い本」と評していた人がいましたが、まさに”言い得て妙”な表現だと感心しました。
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by cita_cita | 2006-07-21 22:27 | 沖縄
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