「ベトナムめしの旅」 伊藤忍(文)・福井隆也(写真)

e0066369_1884510.jpg今まで読んだベトナム料理関係の本の中で一番読み応えがある本でした。料理本だけでなくって、紀行文を含めてもかなり上位に入ると思う。ただ、ベトナム料理の写真と紹介文(たまにレシピ)をずらっと羅列しただけの本が多い中で、この本は地域別に料理を紹介していて、その料理もその地域でピンポイントでしか食べられていないものまで、すっごく多彩なメニューが紹介されています。ハノイのフォーや、ホイアンのカオラウ、ミトーのエレファントフィッシュのように、「地球の歩き方」でも名物として紹介されているような料理はもちろんのこと、ミトーの果樹園ツアーの途中でしか飲めないはちみつ入りのお茶とか、ダラットでしか取れない肉厚のピーマンなどの高原野菜を使った料理とか...。
それに料理の紹介だけでなく、その食材や調味料を詳しく紹介したり、その作り手一人一人スポットを当ててみたりと、飽きることがありません。

例えば、ライスペーパーひとつとっても、ある地域で作られているとても手のかかった、珍しいライスペーパーを取り上げて、その作り手である3つの家族と、それぞれの家族が担当する工程を紹介しています。このライスペーパーは工場での大量生産ではなく、
①生地を作って丸い形に薄く伸ばして2枚重ね、蒸して干す→
②それを焦がさないように火にあぶる→
③朝露と夕方の露を含ませるためにもう一度外にさらす
この3つの工程を違う家族が担当してできる、完全な手作り品なのです。

この本を読んでいると、著者である伊藤忍さんのベトナム料理への愛情と思い入れがひしひしと感じられます。この本そのものだけでなく、伊藤さんという一人の女性に興味を持ちました。旅の途中で、こんな人と出会うことができたら、きっと自分の旅は何十倍も楽しく膨らむのだろうなと思います。内容も初めて知ることが多くて、ベトナムに行ったことのある人もない人も、それどころか在住の人も楽しめる充実度だと思います。私はこの本を読んで、ちょうど1年前に行ったハノイやホイアンで食べなかった料理があることを知り、次回の計画を密かに練っています(笑)


e0066369_18391936.jpgそして、もう一つ、この本を魅力的にしているのが写真の素晴らしさです。
写真は、あの名著「ベトナム・センチメンタル」の著者である福井隆也さんが担当されています。ベトナム・センチメンタルといえば、まだベトナム旅行がメジャーでなかった1990年代の中頃に出された本です。私も持っていますが、今読んでみても内容が充実していて、しかも付録で付いている「ベトナム語コミュニケーションシート」は、今では情報センター出版局の大ヒット商品となった「旅の指さし会話帳」シリーズの原型なんですよね。福井さんはこの本がきっかけでベトナム関連の仕事を多く手がけ、2003年にはついに家族みんなでサイゴン(ホーチミン)に移住してしまったほどの人です。だから、写真もすごくベトナムに対する想いがこもっているし、そこに移っている被写体は人物であれ、風景であれ、食材であれ、「生きているものの力」をすごく伝えてくれるものです。
たとえそれが生き物でない、部屋の中の風景であっても既に調理済みの一皿の写真であっても、その背景にある人の生活とか、自然とか、そういう空気感がいっぱい伝わってくるのです。
町のざわめきや、食器がぶつかり合う音や、市場で交わされる声が聞こえてそう。こんな写真が撮れたらどんなにいいだろうなって思います。三好和義さんの息を呑むような美しい世界中の楽園の写真も、星野道夫さんの思わずため息が出るようなアラスカの大自然の写真も大好きですが、私はこの福井さんのような写真を撮りたいなと思います。そういえば、近頃秘蔵のコンタックスを全然触っていません。ゴールデンウィークの旅行には、久しぶりにこのカメラを連れて行こうかな。
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by cita_cita | 2006-04-11 23:10 | 読書
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