「ブロークバック・マウンテン」

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1ヶ月ほど前の話になりますが、「ブロークバック・マウンテン」を見てきました。
アカデミー賞8部門にノミネートされ、作品賞は「クラッシュ」に奪われたものの、監督賞はじめ3部門受賞した作品です。

この映画を「ああ、あのカウボーイのゲイ映画やね」と一言で片付ける人もいるかもしれないのだけど、この映画は、「ゲイをテーマにした映画でしょ、あんまり見たくないなー」という人が見ても、逆に「この手の映画好きなんだー。楽しみー!」という人が見ても結局不満足に終わるのではないかなと思います。前者の人が見ると、きっと「げーっ、男同士でキスしてる! 嫌だ、やめてくれー!」ってなるだろうし、そんな場面ばっかりが頭に残ってしまうと思う。後者の人だと「あれ?思ったより普通の映画。なんか物足りないなー」となるのかもしれない。というように不満足なまま、映画館を出るハメになるのではないかなと…。

というのは、私の感想では、この映画では「同性愛」というのはクローズアップされるべきメインテーマではなく、単に「自分たちの力では絶対に越えられない障害」の象徴として描かれているのではないかなーと思ったからです。だからある意味ゲイでなくても良かったのかも。例えば、めちゃくちゃ金持ちの若いお嬢さんと超びんぼうなオッチャンの恋愛とか。 マネキンに恋をした男の話とか。 でもね、それでさえ何とかなってしまうことってあるはず。金持ちお嬢さんと貧乏おじさんが結ばれて幸せに暮らす可能性って、そりゃ低いだろうけど決して0%ではない。マネキンの場合は不可能なはずなんだけど、映画の世界ではそれさえも可能になったりしますよね(笑)でも、この時代のこの土地(ワイオミング州)の極度に保守的なカウボーイ社会において、同性愛っていうのはもう絶対にあってはならないこと。たとえ、それが「自由の国」アメリカであっても。それを象徴するシーンとして、物語中では2人でつつましく小さな牧場を経営していたカウボーイ2人が見せしめのようなひどい殺され方をする場面が出てきます。自分が生きているのはそういう社会だということを嫌というほど分かっている2人の苦悩は、2人の気持ちが通じた瞬間から始まるのです。男女だと、相手が仮に結婚していても何かの拍子で全てひっくり返ることもあるかもしれない。でも、ここではそれはありえません。絶望的なほどありえない。そこまでの障害を抱えた関係って他にはないのでは? 私自身は同性愛者じゃないし、男性でもないので、こういうことが自分の身に起こるということはありえないのですが、もし自分だったら・・・という視点でみれば、また違った感想が持てるかも。今より状況が好転することは絶対になく、年月は無常に流れていき2人は歳を重ね、関係を断ち切れば楽になれるかというとそうではないなんて、これは男女であっても、男同士であっても、女同士であっても関係なく辛いことなのではないでしょうか。

この作品には原作がありますが、60ページ足らずの短編です。その世界をここまで膨らませた脚本と、それを撮り上げた監督は本当にすごいと思います。監督のアン・リーは台湾出身で、私の大好きな監督です。彼の作品で最初に見たのは「ウエディング・バンケット」。それから「恋人たちの食卓」と「推手(Pushing Hands)」を見て、ますますファンになりました。(この3つは父親三部作としていずれもラン・シャンという俳優さんが父親役で登場しています。彼がすごく味があるのです…)その後、「いつか、晴れた日に」で本格的にアメリカに拠点を移し、「アイス・ストーム」、「グリーン・ディスティニー」で名前を知られることになりました。(個人的には、アイス・ストームは全編ちょっと暗すぎて97年の公開当時はあまり好きじゃなかった。今見たら違う印象を受けるかも) 私は台湾時代のアン・リーの作品もすごく好きです。もともとこの監督は、豪華なセットにお金を掛けた映画でなくとも、人間模様の絡み合いや心の葛藤などを描かせたらピカイチな人なので、今回はその部分がうまく出ていてよかったと思います。あとは、ワイオミングの壮大な大自然の映像が本当に素晴らしかった。特に羊の放牧の様子を空撮した場面などは、TBSの「世界遺産」を見ているかのような美しさでした。羊が一定の方向に沿って、一面の緑の中をゆっくり動いていく様子が、まるで白い川が流れているようなんです。

ただ少し気になった点を言わせてもらうと、2人の関係が奥さんにばれるタイミングがあまりにも早すぎたような…あとは、最後の場面でイニスがジャックのシャツを握り締めて「ずっと一緒だ・・・」という字幕が出たのですが、英語は"Jack, I swear"でした。そのまま訳すと"ジャック、君に誓うよ”となるので、何を誓うかは分からないのですが和訳によってだいぶ印象の変わる場面です。どんな訳にすればいちばんぴったり来るかは人によると思うのですが、やっぱり「ずっと一緒だ」と言われてしまうとイメージがそれだけに固定されてしまうのですね。映画翻訳って難しいのだなーと思った場面でした。

多分、一回きりでは細かい場面ややりとりを色々見過ごしていると思うので、もう一度見てみたい映画です。
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by cita_cita | 2006-04-20 23:53 | 映画
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