「上海の西、デリーの東」 素樹文生

e0066369_22434895.jpgこの本はお気に入りの本の一つで、旅に出るときによくもって行きます。最初は沢木耕太郎の「深夜特急」を持っていっていたのですが、全6巻あるので、どれを持っていくか旅の前日に悩むのが面倒で、その時に選んだのがこの本との出合いです。最初に見つけたのは京都のヴィレッジ・ヴァンガードだったかな。

「深夜特急」が出版された80年代と比べ、1994年ごろの旅の経験を元に書かれたこの本は、私がアジアの国に引かれ始めた時期に読んでも違和感無く、とてもしっくりくる内容でした。もちろん私はバックパッカーとして何ヶ月もかけて何カ国もの国を旅して回るなんてことはしたことがないし(そりゃできれば、したいけど…)沢木さんや素樹さんが体験したような刺激的で、時には危険な目にあったこともないのですが、それでもこの本を旅先で読むと、そこに書かれている色んなことが生き生きと実感を持って自分の心に響いてきて、相乗効果でワクワクしながら読書を楽しみ、そして旅を楽しむことができるのです。

素樹さんの文章は、時にはちょっとドラマティックすぎてしつこく感じてしまうときも無きにしもあらず、なのですがそれでもやっぱりこの本は思い入れのある一冊です。中国の列車にまつわる悲惨な苦労話のあれこれ(切符を取るところから始まって、実際に列車に乗ってからも悲劇は続きます)これを実際に経験した人が読んだら、もうリアルすぎてたまらないと思うのですが、残念ながら私は経験する前に読んでしまったので、きっと今後も経験することはないと思います。 というのも、これを読んだら「絶対に中国で列車には乗るまい」と思ってしまったので…。でも、10年前から著しく変化した今の中国ではまた状況も違うのかな。 私はちょうど今から14年前に初めて中国に行きました。その時は上海と北京を回っただけで、しかもガイド付きの旅だったのでそんな苦労とは無縁でした。14年前といえば1992年。素樹さんが旅したころとほぼ同じ時期です。 ということは、私がのほほんと万里の長城を観光して周っていたときにも、駅ではバックパッカーによる列車の切符の争奪戦が繰り広げられていたのかもしれませんね。実は昨年の2月に広東省の工業地帯に行ったのですが、その時には観光らしいことをしなかったので、現在の中国と14年前の自分の記憶を比較することができませんでした。今年あたり、ぜひ上海に出かけて、中国の変化をこの目で実感してみたいものです。

また、この本を最初に手にとったときにはまだ行ったことの無かったベトナム北部やカンボジア、インドも、その後実際に旅してみて、そうしてから改めて読んでみると、前に読んだときとは全然印象が違うのです。ほこりっぽいカンボジアの赤い土の道や、ハノイの街角のむんとした空気や、建物の中も外も人でぎっしりのインドの駅など、頭の中に鮮やかにその場面が映像となって浮かんできて、以前には見落としていた文中の色んな表現がぱっと目に飛び込んできます。この本は、最後インドのバラナシで終わるのですが、そこでの「人が焼けていくということ(もちろん死体の話)」そして「日本に帰国しようと思った瞬間」の話が印象的でした。沢木耕太郎さんといい、藤原新也さんといい、人はインドに行くと、やっぱり色々考えてしまうのかなあ、インドにはそういう力があるのかなあと思い、私もインドに行ってしまいましたが、日程の関係でバラナシには行けず、ちょっと不完全燃焼で帰ってきてしまいました。いつか、もう一度インドに、今度はバラナシや南インドに行ってみたいなと思っています。

あと、もうひとつ、この本で気に入っているところ。 それは表紙の装丁です。 スピード感を感じるタイトルのバックに印刷されているのは、多分ベトナムかカンボジアだと思われる風景の中を走る二人乗りの自転車とその後ろに小さく見えるバイク。アジアならどこにでもある何でもない風景ですが、だからこそアジアらしい風景だと思います。
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by cita_cita | 2006-02-27 22:48 | 読書
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