「All Small Things」 角田光代

e0066369_15135552.jpgこの本が出ているのを今まで気付かず、同い年の親友ちかりんに教えてもらいました!なんでこれ今まで知らなかったのかなあ…とっても心が温まる本です。雑誌FRaUに掲載された12編の短編小説と、FRaUの読者に向けて行われたアンケート「あなたにとって一番思い出のデートは?」という質問の回答集、そして、その回答の中のひとつをモデルに脚色した13編目の短編(これは書き下ろし)が収められています。

物語は、1編目の主人公である長谷川カヤノが、初めてできた恋人と互いの家を行き来するような変わり映えのしないデートを毎週末繰り返し「これって恋愛なわけ?恋愛ってもっと情熱的でわくわくするものじゃないの?」と悩み、ふと思いついて友達のさと実にした「今まででどんなデートが一番心に残っている?」という質問から展開していきます。その質問をされた友達が思い出した自分にとって一番心に残っている、でもデートともいえない思い出の時間は、誕生日に恋人がヘリコプターに乗せてくれた夜でもなければ大好きだった彼とディズニーランドのアトラクションの行列に並んだときでもなくて、恋人でもないのにちょっと気になる10歳以上も年下の高校生の後をこっそり家までつけていった、それだけの夜のことでした。そして、家に帰ったさと実は自分の夫に「今までで一番デートらしくないデートって何だった?」と質問し、彼も自分の体験を告白し…という感じで物語は続いていきます。この旦那さんの告白がとってもよかった。気になる女の子を初めてコンサートに誘った高校一年のとき、デートの当日、迷わず新宿駅の正しい出口から出て、そのへんでお茶でもしてからのライブハウスに到着できるよう、予行演習のために朝7時に家を出て、電車を乗り継ぎ、迷って交番で道を尋ね、目印になる建物を覚えてライブハウスを確認してから、2時に待ち合わせた彼女の待つ地元の駅に戻るときの気持ち、「彼女はどんな格好でくるのだろう、どんな風に改札に立っているのだろう、そして僕らは顔を見合わせて最初に何を言うのだろう」。その気持ちが忘れられないというのです。正確にいえば、その日彼女がどんな服を着ていたか、デートは無事に滞りなく進んだのか、どんなライブだったのかは全く覚えていない、覚えているのはただそこに到るまでの時間のこと。それが彼にとってのデートらしくないデートだと言うのです。

この話は、こういう小さなキラキラしたエピソードが主人公を変えながら続き、最後にはまたちょっとびっくりするような、とびきりの展開が待っています。読者のアンケート結果もとてもよかった。「車のなかでしし座流星群を見た」「野外コンサートに行き、台風が来てぐしょぬれになってぽたぽた雫を落としながら山手線にかけこんだ」「一人で居たとき花火が上がり、”花火があがってますな”というメールが彼から届いたとき、同じ時間に同じものを見ていたことが、約束をして会うよりうれしかった」「寝屋川の高架下で仲間から外れて2人になったとき告白され、戻ったときの男子軍団の”やったね!”という顔を今も覚えている」などなど…。角田さんは、このアンケートをとったきっかけを、「自分は飲み会以外にデートらしいデートをしたことがなく、世間の人はどんなに素敵なデートをしているのだろうか」と知りたくなったそうですが、読者から寄せられた300通以上のメールや手紙を見て、「みんなこんな普通のことが一番思い出に残っているんだ!」と安心し、その、みみっちい地味な無数のデート話を読んでいるうちに、みみっちさとは対極にある、とてつもないどでかい幸福感に包まれ「恋はすばらしい!」と映画を見るより小説を読むより強く思ったそうです。
角田さん曰く、「ふつうの、日曜のひとこまのような、雑事に埋もれてしまいそうな、ちいさないとしい時間。だれもがそれを持っている。だれかを思い、その思いが一瞬ふれあい、ときとしてすれ違い、すれ違ってもしかし心に何事かを残す。けっして消えることのない灯みたいに。無駄なことは何一つなく、あるいは全て大いなる無駄である。無駄なような無駄でないような、そこからしか知りえないことのなんと多いことか。」
私は、この角田さんのあとがきにも大いに同感したし、また、それをこんな言葉でくっきりと表現できる角田さんを本当にうらやましいと感じます。私も、自分の思うことを、角田さんの100分の1でも上手に伝えていけたらなと思います。

ちょうどバレンタインデーにこの本を読めて、こんなあったかい気持ちになれてラッキーだったなぁ。
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by cita_cita | 2006-02-16 00:37 | 読書
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