「東京日記 卵一個ぶんのお祝い」 川上弘美

e0066369_11241991.jpgこの人のエッセイは本当に面白い。
「センセイの鞄」の世界に迷い込んだような、なんだかつかみどころのないぼんやりした雰囲気がそのまま展開されている。それでいて、文章はとても計算されていて綺麗な日本語。昔の純文学風の、正統派かつ難解な言い回しなんかもさらりと使われていて、思わず「ほおーっ」と感心してしまう。さすがは元国語教師。

この本は、関東地方限定の雑誌「東京人」に掲載されたものを3年分収録したもので、エピソード一つ一つは日記形式で短くまとめられている。嫌なことがあったときに読んでいても、思わずプププと笑ってしまいそうな不思議なユルユル感。

例えばこんな感じ…『ある日自分に趣味がないことが気になり、趣味を作ろうと思う。色々悩んだ挙句レース編みにしようと思う。でも始めるきっかけがないうちに日々が過ぎていき、レース編みをしなくてはと焦ってくる。他の事をしていても、棚上げにしているレース編みのことが気になって落ち着かず、気を紛らすために、つい目の前のポテトチップスや羊羹をつまみ食いしてしまう。体重を計ったら1.5kgも増えていた。レース編みめ・・・と逆恨みをする』『電車に乗ったら知らないおばさんに「体格がいいわねえ」と言われる。あいまいに返事していると「そんなに体格がいいから、5人もお子さんを産んだのねえ」と感心され、自分は5人も産んだ覚えはないがおばさんがあまりにも確信に満ちてにこにこしているのでだんだん自信がなくなってくる』『ひどい二日酔いになった。二日酔いは薄皮がはがれるように少しずつ治ってくる。治ったか確認するため、午後外出し、まず本屋で本を読んでみる。でも酔うといけないのでじっと読まずぼんやり見るだけ。次に花屋に行く。ものの匂いをかぐ訓練をするためである。そして市場に行って魚や肉を買う。食べ物に触っても取り乱さないか試すためである。』『ポパイの話をしていて、友達が「そういえばあたし、実はプルートみたいな乱暴で押し付けがましい男が好みなんだけど、今の世の中ああいう男っていないのよねえ」と言い、別の友達も「ほんとにそうよねえ」とうっとり追随する。「ほんとにそうよねえ」と私も一瞬真似しかけるが全然そんな男好みじゃないことに気づき、慌てて口を閉じる。閉じながらも、相槌を打ちたくてしょうがない。どうしてこんなに主体性がないのかと情けなくなりながら、必死に口を抑える』

要約してみるとそれほど面白くないかもしれないけど、こういう些細な日常の場面が、彼女の手にかかるとすごく魅力的な文章になってぐいぐいひきつけられてしまう。

当分、川上弘美の本はやめられそうにない。
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by cita_cita | 2006-01-07 23:25 | 読書
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