「トリップ」 角田光代

e0066369_1112268.jpg角田光代を好んで読み出したのは、2年ほど前に図書館で「愛してるなんていうわけないだろ」を借りてからのこと。これは、彼女の最初のエッセイで、今までに50冊以上の本を出している彼女の作品の中ではあまりメジャーではないみたい。アマゾンのランキングでは文庫本も含め77件ヒットした中で64番目にランキングされてたから。
でも、それを読んだとき、「この人の視点ってすごいな!しかもそれを言葉にできるなんてもっとすごい!」と目からウロコだったのを覚えてる。
その後、「対岸の彼女」で直木賞を受賞し、本屋でも彼女の作品が平積みされるようになって、雑誌でも色んなインタビューを見かけるようになった。

「トリップ」は先週図書館で、たまたま見つけて「あ、これ読んでないな…」と借りてきた本。10本の短編が詰まっています。面白いのは、それぞれの話があるかないかという程度の微妙な接点でリンクしているところ。このうっすらしたつながり方が絶妙なんです。例えば1話目の主人公は道を外してみたくて同級生と駆け落ちを計画したのにすっぽかされる女子高生。昨日と変わらず母親と向かい合って晩御飯を食べながら、「本当は違うところに居たはずなのになんでここに?」と思いつつ、母親の話に相槌を打つ。そんな彼女が学校をサボり、隣の家の主婦(家庭内別居中)と河原に寝転んでふざけて叫んでいるのを橋の上から見かけた子供連れの主婦。この主婦が2話目の主人公。彼女は若いころにはまったドラッグがやめられなくて、LSDでトリップしたまんま子供と商店街におかずを買いに行く。その肉屋にお昼にコロッケを買いに行くのが日課の30代主夫。キャリアウーマンの同棲相手に代わり、毎日家事をこなしている彼は毎日お店で見かける主婦がドラッグをやってるのに気づいて観察してる。この彼が第3話目の主人公。そしてそのカウンターの中で店の切り盛りを手伝っている肉屋の奥さんが第4話目では…という風に淡々と展開していきます。

みんなそれぞれ、何かを抱えていて、壊れそうになりながら悶々と日々を送っている。でも、その他の登場人物の目から見ると魅力的に見えたり、悩みだらけの自分よりはよっぽど幸せに見えたりする。きっと世の中ってこういう風にできてるんだなと思う。楽しそうに見えるあの人だって、きっと楽しいことばかりの中で生きてるのではないはず。

収録作の中で「百合と探偵」という話がある。主人公は中年の女性で、娘は独立し、夫は別の女性と一緒になるために慰謝料代わりに主人公に喫茶店を与えて去っていった。その喫茶店の中で、彼女は考える。「ひょっとして、自分は今までずっとここを目指してきたのではないか」と。学校に行ったのも就職したのも、お見合いしたのも恋をしたのも、結婚したのも子供を作ったのも、家庭を持ったのも、ぜんぶここに来るためだけに、我慢して通過してきたことのような気がする。「そこを目指して、必死になって歩いて走って、たどりついたところは、なんだこんなところだったのか」と思って愕然とする。

この話、読んでいたら重苦しくなってくるし、終わり方も全然救われていないのだけど、気になって何度も読んでしまう。ちょうどパトリス・ルコントのフランス映画でも見終わったような後味。短い話なのにすごく印象に残る。重苦しくなるのは、それがリアルだからだと思う。リアルでない話だったら、きっとこんな気持ちにはならない。だってハリウッド映画の娯楽大作で、いくら大勢の人が宇宙戦争の犠牲になったってこんな気持ちにピンと来ないもの。

感動する話は入ってないし、明日からの元気が出る本でもないんだけど、それでも読んでみたいなという人、機会があればぜひ探してみてください。
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by cita_cita | 2005-11-17 21:11 | 読書
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