「役にたたない日々」 佐野洋子

e0066369_15371132.jpg
今日読み終わった本。通勤中、iPhoneの触りすぎで読み進めるのに時間がかかっちゃいましたが、かなりおもしろい。

著者の佐野洋子さんは、谷川俊太郎の奥さんでもあった人。そして名作絵本「100万回生きた猫」の作者。このエッセイは2003年から2008年までの日々をつづったエッセイ。このとき彼女はすでに60代後半。けど、かつて詩人の妻であった落ち着いた老婦人…私たちが勝手に抱くそんなイメージとは全く違い、言いたいことを歯に衣着せずズバズバ言い、些細なことに怒ったり慌てふためいたりして、その後そんな自分に思いっきり自己嫌悪になって落ち込んだりしている。でもまたやっちゃう。

水道局側のミスで、料金引き落としが出来ていないとつっけんどんに攻められたときなど、最初は引き下がったものの自分のミスではないと確認できたら黙っておられず、電話口で苦情を言いまくり、「誰か止めて!このままじゃ私どんどん悪いオバアさんになってゆくよ」と嘆く。それに対して「そんなら前はいいオバアさんだったの?」と突っ込む友達も友達なら、それに対して「…さらに悪いオバアさんになってるの。もうスピード違反になってる暴走族みたいなの。」と答える佐野さんも佐野さんだ。そこに「なにいい人ぶってんの。」ととどめを刺す友達。

朝起きて、ベッドに寝たまま足の指でカーテンを開けながら、「ああ、今日もできた。今日の若さを寝たきりになってから、どんなに涙ぐましく懐かしむことだろう」と思うのがやめられなくなった…と毎日、足でカーテンを開けては自分がまだそこまで老いてないことを確かめる日々。

そんな中、乳がんでの入院先でお見舞いにもらった冬ソナがきっかけでどっぷり韓流にはまり、生まれて初めてDVDを自分で買いまくり、次は「秋の童話」(冬ソナの秋バージョン)「ブラザーフッド」「チング」「シルミド」「猟奇的な彼女」「ホテリアー」とメジャーものから「新貴公子」などという私も全く聞いたことのないビデオ全巻も見て、そして「今の私を、この66歳の私をこのように幸せにしてくれる韓流ドラマとは何であろう。これを知らずにこの幸せ感を知らずに死んだら私の一生はあー損した一生だった。ありがとう。」とまで語る。そして冬ソナの舞台の並木道の島(ナムソム)にまで旅してしまう。けどその一年後には「いやぁ、韓流は幸せだった。もう溺死するほどだったねー。でも今はもう思い出すとゲロが出るねぇ」とのたまってしまう。そのころにはどうやら香取慎吾にはまっていたらしい。ちなみにこのとき68歳。「68歳は閑(ひま)である。バアさんが何をしようと注目する人は居ない。淋しい? 冗談ではない。この先長くないと思うと天衣無縫に生きたい、思ってはならぬ事を思いたい。」という名言を残している。

そんな彼女に70歳のとき、余命2年のがん転移宣告。そして、告知を聞いた帰り道、「今まで自分は自由業だから90まで生きたらどうしようとセコセコ貯めた貯金」を思い出し、近所のディーラーでそこにあったイングリッシュグリーンのジャガーを「それください」と買い(!)、「最後に載る車がジャガーかよ、運がいいよなぁ」と思い、なのにそれを1週間でボコボコにして(車庫入れが下手だから)、いい本に出会っては「これも間に合った!」と感謝し、「金と命は惜しむな」と100回ぐらい何もわからない子供に言ってみたり、「死ぬ日まで好きなものを使いたいから」骨董屋にいって一番気に入ったお皿を買う。なんてパンチの利いた愛すべきオバアさんなんだろう。

なんか、10代のとき20代が、20代のとき30代がとてつもなく大人に見えたのと同じで、60代なんて、もう達観しちゃって人生を悟ってしまってるのかなぁなんて思ってたけど、ぜんぜんそんなことない。(なかにはそういう立派な人もいるんだろうけど。)佐野さんは若いときと同じように悩んだり、焦ったり、後悔したり、ケロッと忘れたりして毎日一生懸命に生きてる。いくつになっても色々感じたり、発見したりすることはできるんだ。だったら自分は達観したオバアちゃんになるより、佐野さんのようになりたいような気がする。なんか、ちょっとうれしくなった。

ちなみに佐野さんは今72歳、健在である。
[PR]
by cita_cita | 2010-08-06 23:45 | 読書
<< 北の国からの手紙 雲ギャラリー >>