「ぐるりのこと。」

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これは、一組の夫婦の10年間の姿をテーマに描いた作品です。

主人公の翔子(木村多江)は美大生時代からの付き合いだったカナオ(リリー・フランキー)と結婚して2人の生活が始まる。カナオはいつも飄々としてて、自分の感情をはっきりと表す方ではない性格。緊張感のある場面になると、いつものらりくらりとかわしてしまう。本当は思ったことを言って欲しいと思う翔子だったけど、その気持ちにも自分でフタをしてしまいつつ、過ごしている。でも、ある出来事がきっかけとなって、それ以来翔子の心には少しずつひずみが生じていって、心のバランスを崩してしまい、頑張っていた仕事も続けられなくなる。

翔子の気持ちがバクハツして、カナオにぶつけるシーンがあって、彼女は赤ん坊みたいに地団駄を踏んでクチャクチャに泣きながら「ちゃんとしようと思ってたのに、ちゃんとしたいのに、できないの」というのだけど、この場面はすごい迫力で、彼女の気持ちが痛いほど伝わってきて、見ていて本当にしんどかった。

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翔子は、自分の実家もちょっと変わった環境で(母親は新興宗教まがいのことやってるし、兄は柄の悪い不動産業、父親はずいぶん前に家を出て行って消息不明)そんな中にいるから余計に自分だけは「ちゃんとする」ことで幸せになろうと強迫観念めいた思いがあったのかも。ちゃんとしようと思って、ちゃんとできてるように思えたうちはよかったのだけど、頑張ってもうまくいかなくて、それで心の中でもがいているんだけど、カナオには伝わってるのかどうかも分からなくて、プツンと糸が切れてしまったみたいだった。

カナオはそのとき翔子を抱きしめて、鼻水を拭いてやって「自分はちゃんとそばにおるから」と言うんだけど、これがカナオの精一杯の言葉だったし、翔子にとっても「どうしていいのかわからない」心の迷路みたいな状態から抜け出すきっかけになる言葉だった。

ここからは翔子が少しずつ変わっていく様子が描かれていくのだけど、表情の違いが、映画と分かっていてもびっくりする。なんか、悪い夢から覚めて憑き物が落ちたみたいにすっきりした顔になって、目にも力が出て、どんどんキレイになっていくからびっくりした。

この物語にはもうひとつテーマがあって、カナオの職業である「法廷画家」という視点を通じて、1993年から10年間の間に起こったさまざまな社会的事件の裁判の場面が出てくる。もちろん本物ではなく、俳優さんが演じているのだけど、幼女誘拐殺人事件や、池田(大阪)の小学生殺傷事件、地下鉄サリン事件など、法廷でのやりとりの場面がたくさん出てきて、しかも眉をひそめてしまうような内容や、映画と分かっていても腹が立ってしょうがない発言などが出てくる。こうやって見ると本当に憤りを感じることがいっぱいあったのに、映画を見るまではそんな事件ややりとりがあったことなど、頭からスッポリ抜けていて愕然とする。

「ぐるりのこと。」というタイトルには、夫婦とそれをとりまく周囲のこと、そして私たちが生活している社会で起こるさまざまな出来事も含めた意味がこめられているのだろうか。

また、時間をあけてからもう1回みたいような映画でした。自分のコンディションにもよると思うけれど、短期間に続けて何回も見るのはちょっとしんどいかも(特に前半)。でも、後半から最後の場面にかけては本当に救われた。本当によかった…。夫婦でいることって、すごいなぁと思った映画でした。
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by cita_cita | 2010-01-26 00:24 | 映画
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